目を閉じたら、あたしの前には何もない。あるのはただの
まっくらなせかい。でも、それは今のあたしにはちょうど
ふさわしいせかいなのかもしれない。さよなら、そう心の
なかで告げてみても、きっと聞こえることはない。声に出
しても聞こえるはずがない。
なぜ、生き残ってしまったのだろう。なぜ、あたしが残っ
たのだろう。みんなと一緒に消えれたほうがどんなに楽だ
っただろう。あたしは隊舎の屋根に寝転ぶと、自分の腕の
包帯があたしが寝返りするのを邪魔しているのに気がつい
た
世の中の矛盾していることなんかよりも、今ここにあるあ
たしのまぎれもない事実が、矛盾など何もない真実があた
しは、何よりも怖くて、何よりも嫌いだ。なくなってしま
えば楽なんだろうか。このままあたしごとなくなってしま
えば、楽なんだろうか。閉じていた目に力が入る。このま
まあけなければ、あかなければ。
「眉間に、皺。」
閉じていたあたしの目を開けさせたのは、日番谷君。彼
はあたしが寝転がっている横に寝転がって。そのまま空を
見上げた。あたしは、寝転がっていたので彼と同じように
自然と、空を見上げることになる。星が綺麗だ。今日は、
空が綺麗だ。起き上がろうとしても、腕の包帯が邪魔して
起き上がれない。何とかして起き上がろうとしたら、起き
上がれたものの腕に激痛が走った。この痛みよりも、彼ら
の痛みは大きかったんだろう。
「星、きれーだな」
なんと言っていいか分からなかった。あたしは、ほんの少
し前までは、こんなにたった一つの会話でさえも幸せだっ
たことを思い出した。今は、幸せを思うことすらいいこと
なのか分からない。みんなは、まだたくさん幸せになるは
ずだったのに、あたししか幸せを掴むことが出来ない。あ
たししかいきていない。あたしは、みんなの幸せになるは
ずだった分まで幸せになんてなれないよ。
「ロマンティックだね」
そんな言葉しか、浮かばなかった。気がつけば、流れてい
た涙。だれかが隣にいることで簡単に出てきてしまった。
どうすればいいか分からなかった。腕の包帯のせいで立て
ないことも、流れてくる涙も、脳裏に浮かぶ仲間たちの姿
も。どうすれば、どこに行けば、何をすれば、消えるのだ
ろう。あたしは、こんなものを背負って生きていくことな
んて、出来ないよ。弱い生き物で、
「……すまん」
あたしが泣いているのを見て、日番谷隊長はあたしにいつ
ものように覆いかぶさるようにしてキスを落とした。あた
しは、ついつい拒絶をしてしまった。あたしは、また君を
傷つけてしまった。ごめんね、そう言いたくても涙をこら
えるのに必死で息が詰まった。言葉が出ないんだ。
「日番谷君の、」
「うん」
「キスはさ」
「ん?」
「甘いよ」
違う、そんなことじゃないんだ、告げたいのは。でも罪を
一緒に背負ってください、なんていえるはずがない。
「俺さ、うれしかった」
「何が、」
「が生き残ったと聞いたとき。」
日番谷くんは最低だろ、俺。と、苦笑いをした、
「たとえ、しか生き残らなかったときいても。」
ありがとう、そういう気持ちだったけれど。そんなことを素
直につげていいのだろうか。
あたしはね、日番谷君。めがあいたときは、目の前が真っ暗
だったよ。あたしだけ生き残ってしまった、みんな命をかけ
て戦ったのに。あたしだけ生き残ってしまった。と、その後
わざわざお見舞いに来てくれる人がいたときもずっと辛かっ
た。だれかと話すたびに生きていることを知った。そして彼
らがすでにいないことも、実感した
「日番谷君のキスは、甘いよ」
「ああ」
「日番谷君は、甘いよ」
「なにがだ」
「みんな、甘いよ」
「は?」
「あたしに、甘いよ。みんな、みんな」
ロマンティック・スウィート
(責めてよ、怒ってよ)
(みんなが優しすぎるのが逆に辛いよ)
36℃様に提出
少しお題からずれたかもしれませんが...
楽しませていただきました。
ぽんこ.