ドリーム小説
きっと、その結晶は消えない___
漲る結晶
* * *
昔から自分に無いような才能なんかこれっぽっちも求めてなんかなかった。
どんなに莫迦にされようと、それが自分の力であり、今だに自分の斬魄刀の名が聞けぬともそれ程気にすることなどなかった。
死神になってから、数十年も経ち、スッカリ時代は変わっていった気がする。
現世ほど著しく変化したとはいわないが、それでも、刻々と時間は過ぎたのだなと感じる。
なんせ、以前の自分の隊の隊長は、退任され、新しい隊長になった。
つい最近、更木の恐いのが、十一番隊になったというのは聞いたが、我が隊の新しい隊長はというと、恐くないが史上最年少なのだ。
つまり、私よりもずーっと、年下で、改めて自分の不甲斐無さが分かる。
と、苦笑いしたとこで何も変わることはないが・・・。
『おい、お前まだ、斬魄刀の名前しらねぇんだってな。』
大笑いで、私をからかう輩のほとんどが私の同期である。
私は無視して通るものの、やはり、同期といえど、皆それなりに護廷十三隊士として役に立っている。
席官についたものも少なくはなく、いつまでも、無席の私は同期の中でもかなり肩身が狭い。
・・・転職したほうがいいのかな・・・。
そんなことも時に思うが、何故か直ぐに頭の隅にその考えは消えてしまう。
* * *
『おい、斬魄刀お前の名前なんだー!?』
ブンブンと危なっかしく振り回しながら、斬魄刀に語りかける。
たまに、修練場の裏で、斬魄刀を取り出し、どうにか名前を聞いてみようとするものの中々うまくいかない。
必要なことは、“対話”と“同調”。
そんなの、言葉だったら、いくらでも説明がつく。
でも、どうやってやるかってったら、自分の体でやってみるしかない。
もう何年もやってきた・・・。
更木の隊長みたいに、霊圧がすんごいとかだったら、困らないけど、生憎私は並みの並。
『はぁ・・・このひねくれモノ・・・。』
斬魄刀に悪口を言っても、うんともすんともしない。
『おい、修練場の裏で何してんだ?』
はぁ?といったダルそうな感じを思い切り、顔に出しながら、振り返ると目が飛び出そうになった。
後ろに仁王立ちしているのは、我が隊の有名な天才隊長ではないか。
『ひ、日番谷隊長こそ・・・。』
『あぁ?修練場に練習に来るのは当たり前だろ。なのに、お前はさっきから、修練場の裏でコソコソ一人で何かしてやがるから、声をかけたんだろ。』
だって、修練場なんか使ったら、新入隊員とかにも莫迦にされるんだもん。
私は直ぐに斬魄刀を鞘に納め、立ち上がった。
『・・・もしかして、お前が斬魄刀の名前も聞けないって奴か?』
『・・・そうですけど・・・。』
私は、下から日番谷隊長を睨んだ。
前の隊長にも色々と怒鳴られたもんだ。それが今となっては懐かしいなんてもんじゃない。
我が隊の恥だとか、本当に失礼な隊長だと心の底から恨んだ。
本当に退任してくれたときは、嬉しかったな・・・。
しかし、これでは、また同じことだ。
どう見ても、自分よりも小さな隊長に怒鳴られる毎日。
『日番谷隊長、次は俺の訓練をつけて・・・ってそこに居るのじゃねぇか!!何してんだよ?どうせ、お前なんか落ちこぼれなんだから訓練しても意味ないぞ!!』
私は、その言葉に言い返そうともせず、ただ下唇をぎゅっと噛んだ。
別にもしかしたら、私にもできるかもしれないなんて希望もう持ってないもん・・・。
私はそのままその場を去ろうとしたが、横切ろうとする私の体を手がさえぎった。
『・・・コイツも俺の隊の隊員だ。斬魄刀の名前を知らないというだけで差別するつもりはない。』
『そ、そんな日番谷隊長!!俺はそんなつもりは・・・いや、あの、その・・・。』
日番谷隊長は、そのまま手を下ろし、こちらを振り返った。
そして、嫌な笑みを浮かべながら、こう私に言った。
どうだ?俺が訓練をつけてやるぞ?他の奴を見返すチャンスだ。
* * *
『あの、よく分からないんですけど・・・。』
『だから!!グバァって感じだよ。』
いや、分かりません。
とはもういえなくて、兎に角、グバァって感じにやってみるが、日番谷隊長の首は一向に縦に振られることはない。
もう一週間は経っただろうか・・・・?
日番谷隊長もこんなに小さいとはいえ、隊長だ。忙しいに決まっている。
その忙しい合間をぬって、こうして私に訓練をつけてくれているのだ。
しかし・・・
天才の人とかは、直ぐに何でも出来ちゃうもんだから、人に教えるのが下手だ・・・。
そう思いながらも、やはり、自分の斬魄刀の名を聞きたいのか、言うことをちゃんと聞いた。
それでも、出来ないのは別として・・・。
『・・・はぁ、休憩しろ・・・。』
『は、はい・・・。』
私と日番谷隊長は木陰に座り込んで、水を口にした。
かなり日差しが強く、汗も軽くかいていた。
そんなときでも、頭を過ぎるのは不安ばかりだ。
最初は私に熱心に教えてくれるが、だんだん私を嫌になってきて、見捨ててしまうのではないか・・・。
そんなことを思うと、喉が渇いているはずなのに、水を飲む気にもなれない。
『あ、あの・・・やっぱり私って駄目ですよね・・・。皆は簡単なことだって言うけど、私にはその簡単なことさえも出来ないって・・・。』
日番谷隊長は無言だったが、きっと自分に呆れてるにちがいない。
ぎゅっと膝を抱えながら、今までのことを思い返す。
落ちこぼれと言われ、ののしられ・・・。
それでも、私は何で死神をやめなかったのだろうか・・・?
『別に駄目な奴とか俺は思ってねぇ。・・・お前、よく頑張ってるぞ。』
『・・・どれくらい頑張ればいいんだろう・・・って時々、思うんですよね・・・。いっそ諦めてしまえば簡単なのに、それでも私諦め悪くて・・・。』
『・・・明日、此処にまた来い。俺の斬魄刀見せてやるから。』
そういって日番谷隊長はその場を立ち去った。
どういった意図で己の斬魄刀を見せてくれるといったのかは分からないが、それでも、私はまたこの場所に明日向かうだろう。
本当は、こんな自分に練習をつけてくれるといってくれて、嬉しかったから・・・。
* * *
日番谷隊長は、何時も通りだった。
勿論、背丈ほどもある斬魄刀以外は・・・。
私は膝を抱えながら、その様をじっと見つめていた。
すると、日番谷隊長はそれに気付いたのか、一瞬こちらを見て、目を合わせたものの直ぐに私を無視した。
『・・・そんなにじっと見んなよ・・・。それより、お前、俺の霊圧に耐えられるか?』
『え・・そんなにすごいんですか・・・。』
私は少し、落ち込んだ。
もしかしたら、日番谷隊長の斬魄刀を見る前に気を失ってしまうかもしれない。
そんなに、自分自身も霊圧は高いほうじゃないし、第一隊長格の霊圧なんか体で感じたことが一度もなかった。
『・・・やっぱ、ここじゃ無理かもな・・・。着いて来い。』
日番谷隊長は出しかけていた斬魄刀を鞘にきっちりとおさめ、私を手招きしながら場所を移動した。
後姿だけをじっと追い続けながら、私は後を少し足早についていった。
* * *
着いたのは、流魂街の中でもずーっと向こうの誰も居ないような荒地だった。
多分80地区辺りじゃないか・・・?
随分と閑散としているし、荒れている風景が目に付く。
『此処なら、まぁ大丈夫だろう・・・。』
周りに高等結界を張りながら日番谷隊長はそういっていた。
少し、不安になってきた。
これでは、本当に気絶してしまう状況も有りかねない。
『大丈夫だ、ちゃんと制御してやるから・・・。いくぞ・・・』
『え、ちょっと、まだ心の準備・・』
卍解___
* * *
あたり一面が白銀の世界だった。
ただ残念なことにあまり気分が優れないことが一つ欠点だが・・・。
これほどの銀景色をあの溢れる霊圧で作っているなんて・・・。
本当になんてキレイなんだろう。
まるで、漲る結晶・・・・。
そんな言葉で現してもおかしくない。
この霊圧に当てられたのもあるが、意識がずっとぼーっとしていた。
それでも、ちゃんとこの景色をしっかりと目に焼き付けておきたくて・・・。
自分が死神をやめない理由って、何だったっけな・・・?
私はそのまま目を閉じた。
それでも、目蓋の裏までも、先ほどまでの銀景色はしっかりと溢れていた。
死神は自分の前からの憧れだから___
そんな幼き日の自分の姿が浮んだ。
満面の笑みを浮かべ、死神のマネをしている。
私は、目蓋を閉じたまま、一筋の涙を流した。
その途端、辺りがぽっと明るく、暖かくなるのが肌で感じれた。
私は目を開け、美しい世界を作った本人を見た。
『どうした?辛かったか?』
私は、首を横にぶんぶん振りながら、精一杯笑顔を作ろうとした。
『・・・私にも、出来るかな・・・私にもあんな綺麗な世界を作ることできるかな・・・。』
『・・・。』
そういいながら、凍りついた地面に日番谷隊長は膝をつき、私を抱きしめた。
『莫迦野郎、お前は、本当に莫迦野郎だ・・・。』
そういいながら、冷たくなっていた私の体はゆっくりと熱を帯びてきた。
それは抱きしめられた所為もあるが、日番谷隊長が抱きしめていると思うと、動悸が激しくなる。
寒さで悴んだ手をゆっくりと日番谷隊長の背中に回して、しっかりとしがみついた。
有難う
本当に、
アリガトウ___
忘れかけていたあの頃の感情とともに、私は、消えることのない大切な感情を見つけれることができた気がした。
漲る結晶で出来たあの景色とともに、ずっと、ずっと消えないように。
* * *
あとがき
一話完結にしようと思いましたが、どうにもこうにも難しいかったです。
それでも、素敵企画に参加する際、どうしてもこの『漲る結晶』というお題がやりたくてたまりませんでした。
本当に至らないとこばかりで、思ったように作品を執筆することは難しかったですが、本当にこの作品を書くのは楽しかったし、それに、日番谷隊長という存在を改めて強く感じることができました。
この企画が楽しくてたまりませんでした。
本当にいいキッカケを有難う御座いました。
070328 梅田美姫
企画元*お題配布→ 36℃