好きだと思ったんだ。
コイツが好きだと、確かに思ったんだ。
「。」
呼ばれてはっとして顔を上げた。
「冬獅郎。」
「日番谷隊長、だろ。ぼやっとするな」
丸められた書類で頭を叩かれた。
ぎゅっと目を閉じてその後の冬獅郎をちらりと見れば、こちらに目もくれず彼はひたすら紙を見つめる。
「見とれてたのか」
予想外の冬獅郎の言葉に私は、びくっと反応して書類を手から落としてしまった。
バサバサーッと広がるそれを見て、彼は「仕事を増やすな」と溜息をついた。
混乱しているのか頭に血が上ったまま無言で紙切れを拾っているとクスクスと笑い声が聞こえる。
「何笑ってるの」
むっとして顔をあげた。
「お前は素直だな、面白ェ」
「からかわないで。もう!」
途切れぬ会話の合間に、笑う冬獅郎の姿を横目で恨めしく盗み見た。
彼は、奇麗だ。
初めて会った第一印象はそれで、小さい(とか言ったら怒る)のに冬獅郎は居るだけで存在感がある。
威圧というか、鋭い、冷たい、それでいて熱い何かを持っていて。
こんなこと言えないけど、一で恋に落ちた。
そんな冬獅郎は女の子から数多くモテていたりする。なのに何故か私と付き合っている。
今だにそれが不思議でならない。
私はふいに口にしてしまった。
「ねぇ、あなたはどうして…私を選んだの?」
冬獅郎は静かにこちらを見て、だけど、私と目線を合わそうとせずにこう言った
「…お前が、穢れを知らないから」
「え?」
どういう意味だろうと思って首を傾げたら、「何でもない」とだけ言って私の髪を撫でる。
「何でも無いって顔、してない。」
首を振って軽く覗き込めば、やっと冬獅郎と目線が合った。
「守るものが何も無かったら、俺のやっていることはただの破壊だろ?」
「…?」
「虚を殺して、魂を送って、それでも俺達死神が得ているものは何もねェ」
冬獅郎が言いたい事、だんだんと分かってきて気がする
「俺の心がそう有りたくない、と思うだけで」
「なら、私はあなたにとってそれだけじゃないという証?」
「…………そういうことだ。」
この人はなんて残酷で、純粋なんだろう
目を伏せた彼に言う言葉がなくて。
「じゃぁ…愛して、ない?」
「………あぁ。」
聴かなければ良かったなんて思ったけど。
「そっか。…冬獅郎。」
「…。」
彼は返事をせずに、こちらを見た。
(なんでそんな泣きそうな顔をしてるのよ。泣きたいのはこっちの方なのに。)
「私は、好きよ。」
確かに、この想いに穢れを感じたことは無かった。
「あなたを、確かに好きだと思っているの」
ちゃんと笑えたはずなのに、冷たい涙が頬を伝う
穢れを知らぬ君
彼女を抱き締めることの出来ない、この汚れた腕を呪う
20070316*アトガキ
とにかく奇麗な夢、奇麗な夢!と躍起になって頑張ってみたんですが何コレ。お題が素敵で奇麗なお題だったので、本当に奇麗な夢小説を目指してみたかったんです!
悲恋じゃないです。器用じゃないからあの人は好きでも無い人と付き合うってことはしないと思う。彼の本当の想いは冒頭と巻末に。
日番谷オンリー参加型夢小説企画「36℃」様に献上!(title18.穢れを知らぬ君) 慧*