会えない時間が続けば続くほど、苛々が募って
終いには市丸に八つ当たり。
仕事を松本に押し付けて
(いつから俺はこんなんになったんだ)
「今日の隊長荒れてますねェ」
「ほんま、どうしたんやろなァ、十番隊隊長サン。」
「…って、何でアンタが此処に居るのよ。ギン。」
「あたたた、そないに耳引っ張らんでもえぇやろ乱菊。」
「うるせェぞ!!!」
バンッと机を叩いてこちらを向く日番谷冬獅郎。
眉をいつも以上に寄せ、同じ部下の松本乱菊と三番隊隊長の市丸ギンを睨みつけた。
「やだわァ、隊長こっわーい」
「お前は仕事しろ、松本。」
「十番隊隊長さんこわーい。」
「お前は帰れ、市丸。」
「…たいちょーう、そんなが最近構ってくれないからって拗ねなくても。」
「なッ…!」
「そうそう。ちゃん四番隊やから忙しいんはしょうがないって。」
「お前は帰れ、市丸。」
「何で僕にはいつも冷たいんー?」
「でも本当、隊長八つ当たりはやめてくださいよー?あたし仕事マジでしなくなりますから。」
「…。」
「ま、今回は可哀相な隊長のためにこの書類引き受けますけど。今度お酒奢ってくださいよ?」
「乱菊僕も…」
「はいはい、アンタはさっき吉良が探してたからね。連れて行かないと」
「ほな、僕は帰りますわ。」
「ちょ、ギン!待ちなさいっ!」
バタンと扉が閉まり、一人静まり返った執務室の中。
ようやく休まったかのように溜息をついた。
一人にしてくれたのは部下と同僚なりの気配りなのだろうか、まさか。などと思いつつ席に座る。
まるでぽっかりと穴がが開いたように無くなってしまった大量の書類と、騒がしい二人。
確かに、八つ当たりをした。松本の言う通りだ。
恋人のは四番隊の官僚であり、忙しい。今この時季だと病人や新人の怪我人で休む暇などない。
(上となれば尚更だが)
だが、一言も言葉を交わす事なく過ごして早三週間。
(さすがの俺も、…溜まるよな)
気付かないうちにもう一度溜息をついた。
「幸せが逃げますよ、日番谷隊長。」
久方ぶりの声に驚いてそちらを振り向くとが居た。
(コイツはいつも突然やってきて、全く心臓に悪い女だ)
「。」
「はい、お久し振りですね。」
何事も無かったのように微笑む彼女を見て、またイラついた。
会えなかった間この女はなんとも思わなかったのだろう。
自分だけが苛ついて躍起になりまるで馬鹿みたいな独りよがり。
(どうして、笑う事が出来る?)
「あら、また眉間に皺が寄っていますよ。」
一瞬思考が飛ぶかのような距離で顔を近づけたから少しだけ分からないよう微動だにし後ろに下がる。
そのまま奇妙な感覚に陥って、食い入るように彼女の顔を見つめた。
「どうかしましたか?」
そう云われて、ぶちまけてやろうかと思った。
「いや、別に。」
腹は立っているはずなのに、苛ついてもいるはずなのに、
どうしてもこの女の表情、雰囲気、仕種が俺に安定を与える。
(厄介な、女だ。)
全く厄介だ。こんな感情生まれて初めてで、自分でも戸惑う。
ただ顔を逸らして一言そういうことしか出来ない俺に彼女は首をかしげた。
そうですか。といつもの俺の事だと思ったんだろう。変わらない態度にまた一つ
花がそこだけ咲いているようにふわりと笑む。
「お前は………だ。」
「え?」
「お前は卑怯だ。」
俺の言った一言には目を丸めた。
一体何の事だか分からないのだろう。
「よく笑っていられるな。」
吐き捨てた言葉は部屋に沈黙をつくり
「この会えない三週間、俺がどんな想いでいたかなんて想像つかねェだろ?」
そうやってへらへら笑っているお前には。と歯止めの利かない言葉ばかり。
彼女はただ呆然と俺を見ていた。
そして徐々にその顔から消える笑顔(あぁ俺はこんな顔させたいために言ったんじゃねェ)
矛盾は矛盾を生んで、その上に成り立つ俺の言葉はやはり止まらない。
「いつも、………会いたいと思うのは俺だ。」
しまった、と思った。
もうそこまで云ってしまった俺は後戻りなんて出来なくて彼女を見ないように壁に背をつく。
顔なんて向けられない。情けねェ、女一人に泣きついて駄々をこねてこれじゃただの餓鬼だ。
馬鹿馬鹿しくって顔を覆った。もしくはもう終わりかもしれないという予感さえもした。
「………とうしろ、…あの…」
静かな部屋に響く震えた声にうんざりした。
なんだよ、と低く呟くと、押し黙る。(言う言葉がねェなら出ていけ)とさえ、思わず口から出てしまいそうになる。
「ごめんなさい。」
何がごめんだ?
自ずと顔を上げた。そこにはただ、こちらを見据えるがあった。
「ごめんなさい、」
(私が不器用なばかりに)
目を伏せた彼女が、そう言う。不器用を言い訳になんてこの女がする筈がない。
第一、不器用なのはお互い様だ。そんなものは付き合う前から知っていた。
それなのにどうして、どうしてこうなった?
ぐるぐるとただ、腹の底で思考を巡らせる。何がしたい、お前は。
「でも、別れたくない。」
「…。」
「私、あなたがいないと駄目なの。」
「俺は…お前にとって、何だ?」
そう、それが分からない。
がまるで呼吸が止まったかのように顔を上げた。
見据えた瞳の奥に何があるのか、