暖かな春の陽気。そんな言葉がしっくりくる季節になってきた

 ごろりと縁側で横になっていると夏のように鋭すぎず、冬のように弱弱しさを感じさせない太陽の光が降り注いでくる

 その心地いい光を全身に浴びようと、女のくせに体を大の字に広げた。絶対に誰にも見られたくない光景だ

 折角の春休みだというのに何処にも出かける予定はなく友達からのお呼び出しを待つばかり。

 宿題でも片付ければいいのではないかと思うくせにやる気は起きず、こうして楽な道を選んでばかりで最終的に泣きを見ることになるのだ

 それが嫌なくせに今ある快楽から身を引こうとはしない。人間の心理は時に面倒である



 「……なんつー格好してんだよ」



 ぐいっと寝転んだまま伸びをした時だった。頭上から予想もしない人物の声が降り掛かってきて体を強張らせる

 一瞬にして顔を引きつらせて見上げた先には、呆れたような顔で私を見下ろしている幼馴染兼恋人の姿が。



 「なっ、何で居るの!?勝手に入ってこないでよ…!!」

 「勝手に入ってくんなとか、今更だろ。…不用心にもほどがある。一人ならちゃんと鍵かけとけ」



 当たり前のように家の中に入ってきて、当たり前のように私が寝転ぶ隣に腰を下ろす。そんな冬獅郎の姿を恨めしく見つめた。

 冬獅郎の言葉通り今日は家には私一人しか居なかった。だからこそこうして堂々と縁側を陣取れたのであり、だらだらできた

 しかしこうして冬獅郎に来られてしまってはおちおち寝てばかりもいられない。…そうは思いつつ未だ私は寝転んだままだけど



 「今日部活は?」

 「午前中だけだった」

 「へー」

 「…他に言うことねえのか。疲れてるってのに暇だろうと思ってわざわざ来てやったのに」

 「別に頼んでないー」



 憎まれ口を叩きながらもちょっとだけ笑ってべっと舌を見せた。可愛くねーと呟く冬獅郎をばしっと叩く

 何だかんだ言いつつ冬獅郎と過ごすのは心地よかった。幼馴染であるということも勿論大きいけど、冬獅郎はよく気がつく。

 無愛想だけど不器用な優しさを併せ持っている。そんな冬獅郎に心を惹かれたのは私にとって自然なことだった

 昔から私の心には冬獅郎の入る場所があった。冬獅郎もそうなんだと知ったときは凄く嬉しかった

 昔はもっと純粋に好きだと思えたし好きだと言えたときもあったけど、この歳になってしまえばそうもいかない。成長とはそういうもの

 でも冬獅郎は変わらずに私の隣に居る。その事実が嬉しくて溜まらない


 不意に降り注いでいた太陽の光が遮られた。暗い影が落ちて、思わずきょとんと目を丸める

 気がついたときには冬獅郎は私の体に覆いかぶさっていて、肩肘を床につきながらじっと私を見下ろしていた



 「なっ、何するの行き成り…!」

 「お前が俺を無視してるからだろ。彼氏が来たんだからちょっとは恥じらい持てよ。何時までも寝転びやがって」

 「冬獅郎に見せる恥じらいなんかないもん…」

 「……お前本当に女かよ」



 可笑しそうにくっ…と喉の奥で笑いつつ整った顔が緩んでいる。

 そんな冬獅郎の顔は普段よりも幼くて、胸をときめかされる瞬間だった。不意打ちのように見せられるこの顔が凄く好き

 光を浴びてきらきらと輝いている銀色の髪にそっと指を通してみる。仄かに感じた香りに気づけば、思わず冬獅郎の頭を自分の方へ引き寄せた



 「…随分積極的じゃねーか」

 「何勘違いしてんの。違うよ、冬獅郎の髪の匂いが気になっただけ」

 「……言っとくがシャワーは浴びてきたからな」

 「誰も汗臭いとか言ってないじゃない。いいから黙ってて」



 そのまま冬獅郎の頭を引き寄せて、髪の中に自分の顔を埋める。

 すうっと鼻を通る匂い。思わず目を瞑って届いてくる香りに体を緩めた



 「…太陽の匂い」

 「あ?」

 「冬獅郎の髪…太陽の匂いがする」



 正確に太陽の匂いとか、そんなことは分からないけど。昔からすぐ傍にある香り。

 真剣な顔して呟いた私に、くはっ!と冬獅郎が噴き出した。そのまま私に体を預けて、体を震わせて笑っている

 最初は自分でも笑われて仕方のないことを言ったなあと後悔してしまったけど、何時までたっても冬獅郎の笑い声は収まらない

 次第に腹が立ちだした私は冬獅郎の体を無理やり引っぺがして体を起こした



 「そんなに笑わなくてもいいじゃない!冬獅郎のばか!!」

 「怒るなよ。ただ、お前の感性が豊かだと思っただけだ」

 「…笑いがなら言われると褒め言葉に聞こえない」



 寧ろ褒めてないのかもしれない。未だに必死に口元を引きつらせまいとしている冬獅郎に冷たい眼差しを向ける

 冬獅郎はまだ笑いながらも私の体を引き寄せて、髪の中に顔を埋めた



 「…お前もするぜ、太陽の匂い」

 「……それはどうも」



 最初は馬鹿にされてるだけだと思った。でも冬獅郎は笑わずに、ぎゅっと私を抱き寄せてくる

 そうされたまま特に何も喋らずに、時間だけが過ぎていった。沈黙を破ろうにも何もいい話題が思いつかない

 第一そうまでしてこの沈黙を破りたいとも思わなかった。落ち着かない癖して心地いい、この沈黙を…。


 思えばいつからだろう、私が冬獅郎を意識しだしたのって

 いつも冬獅郎は当たり前のように私の隣に居た

 いつから自分がこんな感情を抱くようになったのかも、冬獅郎がいつから私のことを特別視していたかも分からない

 ただ、いつの間にか冬獅郎を通して胸の高鳴りとか嫉妬とか、いろいろなものが植えつけられていって

 冬獅郎は私の瞳の中に住んでいたんだ




 瞳の住人




 「…おい、

 「……なに」

 「さっきはうるさく言わなかったけどな、お前もうちょっと女らしくなったほうがいいぞ」

 「………」



 大の字はさすがにねえだろ、と呟く冬獅郎の額をスパーンと叩いた





幼馴染で恋人なふたりに挑戦。太陽の匂いとか書いてて意味分からんと思ったけど、実際ありません?「あ、これ太陽の匂いじゃね?」みたいな(ないよ)拙い駄文ですが「36℃」さまに提出させていただきます!参加させていただきありがとうございました。(07,03,25) ツクバ拝